またもや落語速記本のご紹介です。
段々自分の好みの落語本が明らかになってきました。
これは抑えとかないと! っていう本が、
速記本。噺の構造に興味がある、
と云うことなんでしょうね。
戦前戦後通して一番売れた噺家さん、
の速記本です。
その生涯がお芝居にまでなったというのは、
初代春団治くらいではないでしょうか。
一番古いレコードは大正三年…と編者は推測していますので、
大正三年から春団治が亡くなる昭和九年の間に
出されたレコードの速記本です。
レコードには販売年が書かれていないのでしょうか?
いつ頃の上方落語の速記だってこと、
はっきり分かったら大変うれしいのですが。
そんなことを求めていない落語ファンの
この本の楽しみ方は、
大正期~昭和初期の初代春団治の落語が、
こんなに現代の落語のやり方と近かったのか!!!
と衝撃を受けることが出来ます。
「鰻屋」「へっつい盗人」「婿入(ろくろ首)」「二人癖」は、
ほんとそっくりです。
速記を読んでいると、
実際に見た落語の光景が思い出されて、
くすぐり部分を読む前に、
フライングして笑ってしまうほどです。
また馴染みの無い珍しい噺も読むことができる
貴重な速記本でもあります。
個人的に面白かったのは、
喜六清八がニワカ坊主になって和尚さんの留守中に
鳥鍋パーティーをする「鳥屋坊主」、
それから、若旦那が手伝いの熊五郎と大工の棟梁に
初めて西洋料理を振る舞うという「初廻り」です。
馴染みのある落語でも、
噺の進め方が全然違うものがあります。
「青菜」は、
この速記本の中では「鞍馬の植木屋」というタイトルになってますが、
噺のやり方、進め方がかなり違います。
初代春団治の面白さは、
速記でも十分伝わります。吃音的な話し方、
擬音の多さ、脱線ぐあいなどが魅力的です。
また春団治の落語に対する真摯な態度も
うかがい知ることが出来ます。
ハチャメチャな落語が終わるその時に、
「おあと、交代します」
というような言葉が非常にキリッとしていて、
どきりとします。
そして笑いを取るだけではなくて、
その後のフォローもきっちりしていると思います。
私は「牛ほめ」で、主人公のいとこの女の子が、
「色の黒い骨太の…」と言われて泣き出すくすぐりが苦手でした。
初代春団治は、そのくすぐりの後に、
女の子の父親に「あれ以来、お前が家に来ると知ったら、
会わないように逃げて回る…」というような台詞を言わせています。
年頃の女の子が、傷つきたくなくて苦手な異性から逃げて回る、
という光景は、気の毒なようで、可愛らしいなとも思いました。
春団治の話した「小さな後日談」は、
きついくすぐりを緩和する効果があると言えますし、
また、彼の人柄の良さ(実生活で滅茶苦茶なことをしていたのにも
関わらず)、がにじみ出ていると思います。
収録された演目数が多いので、
本がかなり分厚くなっています。
・「はなしの名どころ(HP)」の「初代桂春団治落語集」演目リスト
一つ一つの噺は、そんなに長くありません。
寝る前に読むのに最適です。
本を読み終わったら、
一人称が「私」から「俺(おら)」に
なりそうで怖い、そんな本です。
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